メトロ文学館

2024年【第39回受賞作品】

電車内で、文化的な雰囲気と潤いを感じていただくため、「東京で感じるあなたの心」をテーマに詩を募集いたしました。ご応募いただいた作品の中から、優秀作品を電車内のポスターとして掲出(期間限定)するとともに、優秀作品及び入選作品※をご紹介いたします。
※入選作品は期間限定でのご紹介となります。予めご了承ください。

【審査員選考記】

審査員 詩人・エッセイスト 白石 公子 氏 しらいし こうこ

変わりゆく風景のなかで

 皆さまのおかげを持ちまして、ここに2024年の夏「第39回メトロ文学館」を迎える運びとなりました。今回は東京都内外から全287編の応募作品がありました。多くの作品をお寄せ下さり、ありがとうございました。心よりお礼を申し上げます。
 コロナ禍が過ぎ去ったあと、インバウンド回復と円安傾向により、日本を訪れる外国人観光客が増加の一途をたどっています。以前はコアなアニメ、日本製品ファンの「爆買い」が話題でしたが、今は明らかに違います。日本のグルメ、音楽、聖地巡礼、伝統、エンターテイメント、ポップカルチャーなど「日本の日常を体験する」「日本文化を楽しむ」ためにこぞって訪日しているらしいのです。そのため東京のみならず各地の観光スポット、街の風景が変わってきたことは周知の通りです。
 今回の応募作品のなかにも、訪日外国人たちとの触れ合い、気づき、ほほえましいやりとり、印象深いシーンなどを描いたものが、多く見受けられるようになりました。日本を楽しんでくれる外国人により、逆に日本の良さについて教えてもらう機会も増えました。これまで当然のように受け止めていた日本文化について、再認識させられるきっかけにもなっているようです。そしてまた刻一刻と変わっていく風景――「メトロ文学館」は、そんな時代の変化、きらめくような一瞬のドラマ、かけがえのない、あなただけの日常の物語を見届けたい、読みたいと思っています。

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【第39回優秀作品】

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「きれいになれますように」

妹尾 奈名子

「背伸びして選んだ化粧品」を初めて使用する時のワクワク感、感触、深呼吸、五感を通して丁寧に掬い上げ、明日に繋げてくれます。

「宮出し」

蛯原 美波

完全復活を遂げた「三社祭」の最大の見せ場が歓喜と臨場感たっぷりに描かれ、外国人観光客たちが掲げるスマホの波も圧巻でした。

「ほおずき市」

内藤 隆文

ほおずき市から駆け込む博物館。暑と涼、光と影、喧噪と静寂、過去と現在が交錯して内なる祈り、安寧の世界に誘われていきます。

「母への恋文」

土田 栄

「自慢の息子」という言葉の尊さ。どれほど作者を支えてきたか。亡き母親への溢れんばかりの思慕に胸がいっぱいになりました。

「父さんの不思議」

立石 信行

外出先の父親「かばんのヘルプマークが/不釣り合いな老人になる」の意外な姿を「不思議」と受け止める敬意と慈しみの眼差し。

「電線音譜」

橘 一洋

電線のカラスを「電線音符」と見立て音符を記したり、ばらすように飛んだりする様子に音楽が微かに聞こえてきます。曇天もいい。

【第39回入選作品】

「キャッチボール」

鈴木 惠治

父と息子のほろ苦いキャッチボール。寡黙な曲線をたどっていくと胸が熱くなりました。

「海の街へ」

上田 直子

あえて時間のかかる行き方を選んで到着した海の街。一気に潮の香と喜びに包まれます。

「東京歴史めぐり」

福田 智弘

駅名に歴史あり。これまで通り過ぎていた名所旧跡の案内板も読んでみたくなりました。

「カウントダウン!」

岡山 弥栄子

散りばめられたカウントダウン数値にワクワク感が募り、最後一緒に叫んでしまいます。

「四谷の階段」

八木澤 本昌

負傷して初めてわかる人の優しさ。違う体感と風景。あの「四谷の階段」が物語ること。

「聖橋」

日比 美彦

「聖橋」の小さなドラマ。「たがいの胸を隔てて/赤い車両が渡る」が目に沁みてきます。

「東京 孫旅」

高坂 恵美

お孫さんたちを訪ね歩く東京案内、その道のりが世代と歴史に繋がっていく流れが秀逸。

「異邦人」

渡会 克男

日本を好きでいてくれる外国人により、逆に日本の良さを教えられることが増えました。

「阿佐ヶ谷南児童館」

上原 美樹

懐かしい場所を訪ねた時の「建て替え案内」の看板に、郷愁と幻惑感が呼び覚まされます。

「階段」

清水 宏幸

駆け上がる「階段」はその職場に「挑戦するための儀式だ」。強く背中を押される感じ。

「休日の電車内にて」

上田 素生

電車に揺られているすべての人に、かけがえのない物語があることを教えてくれます。

「路線図」

矢野 千景

昭和の頃、路線図カードを遠ざけたり近づけたりすることで老眼に気づいたものです。

「大地」

中村 巨摩

「元気いっぱい泣けばいいよ/大地が受け止めてくれる」に掬われた気持ちになりました。

「さざめく波の上で」

吉村 史年

心躍る初ボートデート「太陽が水面に光をちりばめる」が美しくまぶしい蜜月の二人。

「クリスマスの日に」

岩下 玲子

「自分をもっと大事にして/生きていこう」に気づくブーツのシーンは映画のようです。

「席をゆずる」

松岡 宮

電車で席を譲ったり、譲られたりする瞬時、多様な感情が拮抗することを思い出しました。

「マナーモード」

山田 隼

「マナーモード」から読み取る日本的な人との距離の取り方、静かな思いやりと優しさ。

「散歩」

原岡 望

幸せな一コマ、会話であることを、あとに続くカルガモたちに教えられるようです。

「電車で靴を見る」

草野 理恵子

靴を見て、人に思いを馳せることの豊かな時間こそが癒しにつながっていくのでしょう。

「街角ピアノ」

正井 久雄

はじめて「街角ピアノ」にトライする様子が生き生きと綴られ、勇気を与えてくれます。